Swatch ONCE AGAIN


最後の普通時計

実は腕時計を作れる企業はこの世界に数社しか無い。安価なクォーツに限れば

だけだ。

誕生から半世紀、クオーツ時計はコモデティ化が進みきり、早期から設備を整えることができた企業しか残っていない。コストダウンされたムーブメントの製造原価は10円にも満たないだろう。

だからダイソーの時計も、アナログチープカシオも、一見おしゃれなドレスウォッチもみんな開ければ同じ汎用ムーブメントだ。しかも小型化が進んでいるから、スペーサーでスッカスカ。

すでに腕時計の開発においては、ムーブメントのサイズから必然的にケースサイズを設計しているわけでも、時計のケースサイズに合わせるようにムーブメントを設計するわけでもない。

そこに工業製品的な美しさはあるだろうか?

だが、swatchだけは違う。

時は80年代、スイス時計業界の最後の奥の手として誕生したswatchは、安価で使い捨てなデザイン時計である。別に高精度なわけでも、多機能なわけでもない。しかし、swatchの美点は、未だにそのままの形で製造している点だ。

スケルトンモデルのムーブメントを見ればわかるが、今どきありえない大柄な8pinのDIP ICが載っているし、ムーブメントもケースを目一杯使ったサイズ。駆動音もバカでかい。

だが、swatchは現代の低価格帯の腕時計とは違う。製造コストを下げるためにケースとムーブメントを一から専用に設計し直されている。まさに形態は機能に従うの言葉どおりの時計ではないか!これからの時代、こういった時計が一から設計・生産されることはありえないだろう。swatchがこの形を変えないでいる内だけである。

swatchはただの安物時計ではない。専用に設計された、最後の量産時計である。


アナログ腕時計に私が求める性能は

であるが、これを満たす安価な(中古相場5000円以下くらい)の時計はほとんどない。というか高級時計にもない。

画像はそれぞれamazonのページから引用(7s26だけはヤフオクから)

チープカシオにデイデイトは無いから入らない。

まあ、この条件を満たせば、それは学校の掛け時計や駅の設備時計みたいなデザインになるから、欲しい人少ないかも知れないけども、道具として必要な機能を体現すればこういう時計が究極の普通になるのはずだろう。

https://www.seiko-sts.co.jp/products/detail/sts_541.html
セイコーファインクロック,画像はセイコータイムクリエーションの公式サイトより引用

本当はアラームもストップウォッチもほしいけど、その条件では本当にこの世界に存在しない。ぼくのかんがえたさいきょうの実用時計は無いのか。


前半で、現代クォーツ時計にさんざ文句言ったが、じゃあ機械式にすればいいじゃないか、となるかもしればい。しかし機械式なぞ、クォーツ時計に比べればぜんまい仕掛けのブリキのおもちゃだ、とまでは言わないが・・・時計界隈の機械式賛美風潮については、なんかマーケティングと現実の区別ついてないな、と感じる。

精巧で複雑な構造?最新の工作機械でさえミクロオーダーに対して、時計用CMOS ICの主力、恐らく20年近く前の製造プロセスはすでにナノオーダーだ。文字通りに桁が違う。そして集積回路ほど人類が作れる複雑で精巧なものは無いだろう。

一生モノ?落とせばすぐに動かなくなり、定期的なメンテナンスが必要な機械が?ICの過剰なほどの耐久性を見よ。(まあ、他の部品がだめになるのが先だろうけど)

時代を超えたロマン?大体、機械式時計なんて500年前の人間でも作れたのに対して、クオーツ式わずか100年前の人間にも作ることができない代物だ。量子力学、電磁気学、機械工学、エレクトロニクス、20世紀の人類の叡智が数cm四方に詰まっている。これにはロマンを感じないのか?

確かに、安い。安物だ。だが、だからといって取るに足りないものでは決してない。雑念を排除すれば、本来クォーツには魅力が豊富であることが気付かされるだろう。

甘い宣伝文句で、自分自身の消費性向を見失わないようにしたい。


2023/12/3 戻る